賢者の石。金属を金や銀に変える力を持つと考えられていた想像上の石のことだ。今はハリー・ポッターの話が有名だが、もちろん今回もリキュールにまつわる話だ。
蒸留酒を生んだのは中世の錬金術師。蒸留酒の製法は、錬金術における「賢者の石」精錬の試みの中で偶然発見されたといわれている。そして、生まれた強烈なアルコール分を含んだ酒を「アクア・ヴィテ/Aqua vitae(生命の水)」と称した。
つまり、「生命維持の秘薬」として用いられていたのだ。その効果を高めて秘薬を超えた霊酒に生み出すために、さらに各種の薬草を溶かし込んでいった。この植物の有効成分を溶かし込んだ(リケファケレ:リキュールの語源)酒は、錬金術師たちによって「エリクシル/elixir」と呼ばれたそうだ。
エリクシルの由来は、アラビア語の「アル・イクシール/al-iksir」。アルはtheと同じ定冠詞。そしてイクシールが、「賢者の石(philosopher’s stone)」を意味する。
錬金術師が調合したいろいろな薬酒をエリクシルと呼ぶようになり、リキュールの祖先が生まれたときにも、この名前が使われていたのである。賢者の石は金属を金や銀に変えるというが、リキュールまで生み出したと考えると何とも面白いではないか。
※リケファケレにまつわる話は、既出コラム「リキュールの語源」で。