バイブルの中にもパーム椰子の酒が登場するという。それくらい古くから飲まれてきた酒である。椰子は熱帯、亜熱帯各地に様々な種類が分布していて、2000年前にプリニュウスが約49種類あると記述しているほどだ。
当然、椰子酒の原料となる椰子も様々である。北アフリカから中東、インドにかけては棘椰子の酒が造られ、熱帯アフリカではラフィアヤシ、アブラヤシなど様々な種類の椰子が酒造りに利用されている。東南アジアからミクロネシア、カロリン諸島、メラネシアの一部にかけては、サトウヤシ、ニッパヤシ、ココヤシなどが酒造りに利用されたようだ。
実は、椰子酒は実の汁ではなく花の汁で造る。マルコポーロも実から汁をとると勘違いしていたらしい。汁の採り方に関してはいろいろあるようだ。「花の周りの大花包を刺し通すと、シロップ状の液が出る。これを集めたのがパーム酒である」「椰子の花軸が30〜40センチメートルぐらいに伸びた頃、周りにロープを巻きつけて結び、その先端を切断し、そこに容器を取り付けておくと、汁液が溜まる。2〜3日で酒になる」などの記述がある。
ギリシャのヘロドトスは「古代のエジプト人は、ミイラを作る際に、パーム椰子の酒を使った。内臓を取り出した後の洗浄に使った」と記している。パーム椰子の実は、エジプトからオリエント一帯にかけて人々にはなくてはならない食料資源だった。それを原料にした椰子酒と没薬、肉桂、その他のスパイスの香膏がミイラ作りに不可欠であった。