欧米に行くとワインの水割りを飲む人を見かける。そんな習慣がない日本人には驚く人もいるが、そんなに珍しい光景ではない。オーストリアやドイツでは“G’SPRITZTER(グシュプリッツァーorゲシュプリッツァー)”(ドライなワイン=グリューナーヴェルトリーナやウェルシュルースリング等をガス入りのミネラルウォーターやソーダ水で1:1で割ったもの。ドイツではショルレと呼ばれる)というアルコール系飲料があるし、お店で子供に飲ませている人もいる。
この「ワインの水割り」、実は歴史的にも古い飲み方だ。しかも、カクテル=酒+Somethingと考えるなら、カクテルのルーツをたどる話にもなってくる。
古代ローマ帝国では、ワインの水割りが市民の常用的な飲み方だったという。クセジュ文庫の「味の美学(Robert J.Courtine著、黒木義典訳/白水社刊)」によると、ワインに混ぜものをして飲んでいたことが書いてある。「この混合はブドウ酒に対して悪い影響しか与えなかった。一番いいブドウ酒は非常にアルコール分が強く、また濃かったので、つぼから盃に移すとき、その沈殿物を漉してその場で水割りにしなければならなかった。もっともよく飲む人たちでも水で割っていた。そして割ってないブドウ酒をこっそり飲むのは異常者か欠陥人間だけで、その人たちは現在のエーテル常用者のように非難されていた…」
当時のローマ人にとって「ワインの水割り」が常識的な飲み方で、他にも石膏、粘土、石灰、大理石の粉、海水、松脂、樹脂などを加えて飲んでいたらしい?!
一方、古代エジプトでは、ビールにハチミツや生姜を加えて飲んでいたという。チズム(Zythum)、カルミ(Calmi)、コルマ(Korma)などと呼ばれていたらしい。さらに紀元640年頃、唐の時代になるとワインに馬乳を加えた乳酸飲料が飲まれていたと伝えられている。
こうしたワインやビールに何かを加えて飲みスタイルは、カクテルの原始的な姿と考えられなくもない。その当時の人たちに今のカクテルを飲ませてみたいものだ。あまりの美味しさに輝くような笑顔になることは間違いあるまい。