錬金術師を起源とするリキュールの先祖、エリクシル。薬酒としての役割があったのだから、キリスト教の修道院で発展したのもうなづける。どう修道院で盛んだったのか。気になる方も多いのではないだろうか。
修道士たちは、朝夕の勤行の間をぬって農作業を行い、薬草の採取や薬酒調製に専念していた。もちろん、その土地によって採集できる薬草や香草が異なるし、修道士仲間の連絡で高貴薬草も購入していたらしい。だから修道院ごとに特徴あるエリクシルが生まれるのも当然のことだ。
エリクシルは病に苦しむ信者たちに与えられ、疲れた旅人を癒すためにも使われたという。また、粗食に耐えながら戒律を守る修道士の栄養物としても支給されたらしい。そうした目的上から熱心に質の向上に努める修道士会も多かったようだ。
6世紀に発足したベネディクト会もそのひとつだ。ドイツのバヴァリア地方オーバーアンメルガウの近くのエッテル修道院(Kloster Ettel:クロスター・エッテル)では、1330年から薬草リキュールが作られている。現在も伝統を受け継いで生産されている「Ettaler Klosterlikor:エッタラー・クロスターリケール」は、EUで産地表示リキュールとして特別扱いされている。
同会では他にも1510年にフランスのノルマンディ地方フェーカンの修道院で生まれたエリクシルが今でも有名だ。イタリア出身のベルナルド・ヴィンチェリ(Bernardo Vincelli)が作りだしたものでエリクシル・ベネディクティンと名付けられた。現在の薬酒系リキュール、ベネディクティンの前身である。
他にもカルトジオ会、シトー会などが熱心に生産していた。カルトジオ会では、1605年に現在のシャルトリューズというリキュールの原型が生まれていたという。
エリクシルは、どこの修道院でも秘酒として扱われていた。神の恵みの薬酒として大切にされたのである。ほどほどであればアルコールは体に良いといわれている。度が過ぎた飲酒は、神を恐れぬ振る舞いと心しなければならないようだ。