前回までちょっと固い話が続いたので、リキュールの歴史にまつわる楽しい話をご用意した。
15世紀、北イタリア、ヴェネチアとヴェローナの中間の町パドヴァの話である。パドヴァにミケーレ・サヴォナローラ(Michele Savonarola:1384-1462)という一人の医師がいた。彼は、さる病弱な婦人に生命の水と讃えられているブランデーを薬として勧めたが、その婦人は飲みたがらなかった。
そこでサヴォナローラ医師は、ブランデーにローズの花の香りとモウセンゴケ(sundew)の味を溶かし込んだリキュールを開発し、ロゾリオ(Rosolio)と名付けて勧めてみた。その婦人は気に入ってこれを薬として飲むようになったという。これがリキュール・ロゾリオの誕生物語である。
ロゾリオとは、モウセンゴケのイタリア古語ロゾリ(rosoli)に由来する。このロゾリも、元はラテン語で「露」を意味するロス(ros=dew)と、同じく「太陽」を意味するソリス(solis=of the sun)を由来とする言葉だ。つまり、ロゾリオとは「太陽のしずく」といった意味になる。
ロゾリオの評判は、パドヴァの町に広がり、やがてイタリアでつくられる薬酒系のリキュールは、いずれもロゾリオと称されるようになり、イタリア産のリキュールの代名詞になった。ちなみに1480年ごろ、ナポリの南サレルノでは、こうしたロゾリオが薬酒として盛んにつくられていたようである。