以前、「グラスの中身」というコラムで、グラスの材質をもとに異なるタイプを紹介した。今回はカタチである。数回かに分けて紹介していこうと思う。初回は、脚付き型グラスと平底型グラスの話。ふと会話が途絶えた時、使える話である。
正式な決まりがあるわけではないが、脚付き型グラスはフォーマル派、平底型グラスはカジュアル派と言われている。その理由をご存じだろうか。西洋の酒器の発達史と関係があるが、古代の人達が今の我々と同じグラスで飲んでいたわけではない。
考古学的な発掘品からは、当時の人々が家畜の角を酒器として利用していたと推測されるそうだ。だから、その後に登場する青銅や粘土で作られた酒器も、似たカタチが多い。口が狭く、背が高いデザインである。このカタチ、そのままでは倒れてしまうので、脚は必須だ。当然、作るのに手間もかかるので高級品である。そこで主に神前用や高貴な人の専用酒器となったようだ。
さて、脚をつけるのが大変だとすると、簡単なのは下部をちょんぎって底をつける方法だ。手間もかからず、量産がきく平底型である。当然、大衆用となった。
このような酒器の歴史が現代に受け継がれ、格調あるフォーマルな場では脚付き型グラスが用いられるようになり、気取らず楽しむ場では平底型グラスが使用されるようになっている。もちろん、その大きさはアルコール度数の強弱や味の濃淡に合わせて大小様々だ。
とはいえ、こうしたグラスの使用区分もあまり意識されなくなってきた。しかし一方では、バーテンダーのセンスでグラスが選択され、アイデアに満ちた使い方が生まれている。それはそれで酒器文化の発展にとって素晴らしいことである。