エジプトの酒神として名高い、オシリス。元々は人間だった。そして酒神である前に、冥界の神であるとともに豊穣の神であった。オシリスはどうして酒神として崇められるようになったのだろうか。
人間だったオシリスには、イシスという妹がいた。イシスが先に亡くなり、嘆き悲しんだオシリスが冥界に入り支配することになったという。
豊穣の神としてのオシリスは、人々に耕作や牧畜を教えたそうだ。毎年ナイル河に起こる恐ろしいが肥沃な土をもたらす氾濫とそれに続く豊作を約束する神であった。
なぜ、オシリスが冥界の神であり、豊穣の神であるのかは定かではない。バッカスの葡萄も、枯れて芽吹くということから不死の生命をイメージさせたように、古代世界では死と生は一体として語られるものなのかもしれない。
では、なぜオシリスが酒の神になったか。一説によると、ナイル河の氾濫と豊作という相反する二面性と、酒のもたらす善悪の二面性が一致したためともいわれている。悪い側面は別にしても、豊穣と酒は地域を問わず密接な関係にあるので、豊穣の神が酒の神になることは自然な流れだったのかもしれない。
また、酒神の信仰は、暴飲を避け、できるだけその効用を得る意味があったようだ。酔っての乱行、自失の行為を律するために生み出された知恵ともいえる。蛇足ながら、そうした信仰が必要な人が現代にもまだまだいるようだが。
酒場の話題としては、「死者の書」に出てくる菓子と麦酒のアアトと呼ばれる場所でのエピソードはどうだろうか。
四つ裂きにされたオシリスの体をアアトで秤にかけて、その欠けていないことを確かめ、組み立て直し、生き返させる。オシリスは、天の菓子と麦酒をトト神から与えられて元気を取り戻した。
酒は元気を与える薬にもなる、というオチである。