ニュートラルですっきりした酒質であるウォッカは、カクテルのベースとして理想的なスピリッツである。世界的に使われているだけでなく、今日では世界中で製造されている。今回からウォッカの話である。
ロシアとポーランドは自国こそウォッカの発祥地だと公言して譲らないそうだ。しかし、その誕生の年代は明らかではない。12世紀ごろからロシアの地酒として農民の間で飲まれていたという説や、11世紀ごろには隣国ポーランドに存在していたという説などがある。
歴史上では、モスクワ公国(1283年-1547年)の記録にウォッカのことが記載されている。12世紀ごろに飲まれていたことは確実なようだ。12世紀前後に東欧に生まれたとすれば、ウイスキーやブランデーの誕生よりも前になり、ウォッカはヨーロッパで最初にできた蒸留酒ということになる。
ウォッカという名前の由来にも諸説がある。ポーランド語源の、ヴォーダ(Woda)に由来するという説もある。ちなみにポーランドでは、古くは「ゴルザルカ(gorzalka)」と呼ばれていたようだ。
ロシア由来の説は、次のような内容だ。蒸留された酒を当時、ズッズネーニャ・ワダ(Zhiznennia Voda:生命の水と呼ばれていた(「生命の水」と呼ばれていたことから、蒸留の技術を伝播したのが錬金術師だと推測される)。このズッズネーニャ・ワダという名称が、やがて単にワダ(水)と呼ばれるようになり、16世紀イワン雷帝のころから、その愛称形のウォッカ(Vodka)という名が使われるようになったという説である。
19世紀の帝政ロシア時代には、政府の収入の約3割がウォッカの酒税だったという。ウォッカは広くロシア国民の間で飲まれていたスピリッツである。1917年のロシア革命以後、ウォッカは西欧諸国に知られるようになった。
西欧におけるウォッカ生産は亡命白系ロシア人、ウラジーミル・スミノフがパリで小規模ながら製造に乗り出したのが始まりとされる。その後、アメリカへ禁酒法解禁とともに広まり、第二次世界大戦後には日本でもつくられるようになった。